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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

六

(変だな)と思わざるを得なかった。

非常に長い時間が経った。

と、その時誰かこの家に、訪ずれたものがあると見え、迎えの声がかまびすしく聞こえた。

六

しかしその声も静まった時、一方の襖がわずかに開き、誰やらこの部屋を覗くものがあった。で、熊太郎は振り返って見た。

すると朗らかに笑う声がし、

「おお戸ヶ崎か、これは珍しい」

こういう声が続いて聞こえ、すぐに襖が一杯に開き、鶯茶の渋い十徳を着た、二十八、九歳の立派な人物が、笑みを含んではいって来た。

顔の色の美しさ、瑪瑙を白絹で包んだといおうか、底に仄かな赤味を持ち、しかもあくまでも白く艶あり、もうその顔色を見ただけでも、正しい血統の高貴の産まれだと、推察することが出来るほどであった。彫刻のような端正な眉目、年に似合わず禿げ上がりかかった、広い高い額など、容貌にはほとんど非の打ちどころがなく、髻を紫の絹の打ち紐で巻き立てているのも高尚であった。

その後から茵を捧げながら、例の町娘が従いて来たが、熊太郎を見るとテレたように微笑し、上座へ茵を手早く直すと、早々にして引っ込んだ。

「水戸様お館で逢って以来、かけちがってとんと逢わぬ。