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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
が噂は絶えず聞いていたぞ」
懐手をしたままいうのであったが、それが尊大には見えなかった。
「これは松平冬次郎様、意外も意外このようなところで……」
そのお方を一眼見ると、熊太郎はしたたか驚いたように、こういって畳一畳ほど辷り、平伏して動かなかった。
それまで熊太郎の傍らに坐り、不安そうにキョトキョト眼を躍らせ、部屋ばかり見廻していた清三郎も、師匠の真似をして畳を辷り、これもピッタリ平伏した。
「そう、戸ヶ崎かしこまっては困る。寛げ寛げ」
といいながら、冬次郎は床の間を背後に坐った。
「実は勘助からちょっと聞いた。後を尾行けて来たということだの」
「勘助? ははあ、ではあの女装の……女装の男は勘助殿とやらで」
もうすっかりおちついて、いずまいを直した熊太郎は、しかし十分敬意を払い、謹んだ言葉つきでそういった。
「彼奴賊での、勘助という」
「賊? ははあ、名は勘助?」
「が、今はわしの部下じゃ」
「…………」
「悪い手癖もやめている」
「…………」
「ついでにみんな明かしてしまえ。庭男のような様子をしていた男、あいつも賊で外伝という。……桑門の出だから面白いではないか」
「…………」