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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
八
突然お吉は立ち上がった。
「どうした? どこへ? オイお吉!」
「そう聞いちゃア我慢は出来ぬ。妾ア楢屋へ捻じ込んで行って、九十郎の素姓を洗いざらい、ぶちまけて縁談の邪魔してやる。……ご老中田沼のお殿様に、睨まれている、そればかりか、服部兄妹に親の敵と、狙われている身だとねえ」
フラフラとお吉は土間の方へ行った。
「あばれ込むなアいいとして、打ち明けてやった俺へのお礼、おいお吉どうする気だ」
追い縋る団八の頬のあたりを、お吉はピッシリ食らわせたが、
「これがお礼さ、身に滲みたかえ!」
よろけた団八の足に踏まれ、三味線が折れて絃が切れた。
「ヨーシ、何も彼もバラバラにしてやる! 女の一念! 執念で!」
お吉は格子の戸へ縋った。
八
同じこの日のことであった。
高島の城下から一里ほど離れた宮川の里茅野の郷の、立て場の茶屋で服部兄妹、範之丞と織江とが雲助や馬方に、何やら難題をもちかけられていた。
「高島まではなかなかの難路、谷もありゃア、坂もあり、渡るに渡られねえ荒エ河もあるんで、それに奥方だか情婦だか、そんなこたア知らねえが、お連れのお女中お疲労れのご様子、そこで親切に駕籠オ進めたんで」