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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

で、甲州へ行って見た。

石和の貸元源太郎というのが、

「その男なら二月ほど以前に、信州路へ落ちて行きましたよ。人の噂だから確かとはいえぬが、諏訪の高島に身を落として、くすぶっているとかということで」

と、そう親切に話してくれた。

そこで諏訪の地へ来たのであった。

「敵討ち! それはそれは」

と、又助は意外に驚いたらしく、胸を反らせて大仰に云った。

「いやそれはお勇ましいことで、ふうむ、敵討ち! 敵討ち! ……で、敵の名は何んと云われますな」

「臼杵九十郎と申すものでござる」

敵討ちと明かしてしまったからは、敵の名ばかり隠したところで、仕方がないとそう思って、正直に範之丞は云ってしまった。

「九十郎! 臼杵九十郎! ……ふうん、臼杵九十郎!」

ギョッとして又助は唸るように云った。

「ご存知でござるかな? ご存知なら……」

大仰に驚いた又助の様子に、範之丞は不審を打ち、顔を見守り熱を持って訊いた。

と、それまでは無言をつづけ、兄の傍らに引き添って歩き、二人の話を聞いていた織江が、同じように熱のある声で云った。

「もしご存知でござりましたら、任侠のお心をもちまして、居場所お知らせくださりませ」