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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

十一

……そこを狙って敵討ち本懐、おとげなされたら究竟一! ……ということになるではござらぬかな」

範之丞と織江とは考え込んだ。

十一

その日の夕方のことであった。

陽はまだ少し残っていて、破れた窓に射していたが、屋内の器具や調度など、一様に暗くて見境いのつかない、島崎通りの外れにある、櫛木団八の廃借家の、八畳の部屋に三人の武士が――九十郎と又助と団八とが、酒をのみながら話していた。

「いや驚いたの候の、我が身ヒヤッと致したぞ」

こういったのは又助で、猪口じゃアまだるいといったように、湯呑みの酒を一あおりした。

「今夜りゅうりゅう細工がなって、三国一のお婿様の、候補者として楢屋へ乗り込む、わが臼杵九十郎氏を、敵と狙う兄妹なるものが、忽然として現われたんだからのう」

酔ってもいたが手柄も手柄だ、そう思ってか同じことを、さっきから幾度となくいうのであった。

「そこで我が身彼奴らをたぶらかし、拙者屋敷へ引き入れたが、これから、どうしたものだろうかのう」

九十郎の顔をうかがうように見た。

さすがに九十郎は浮かない顔をし、盃を唇へあてようともせず、腕こまぬいて考えていた。