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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
思いなしか顔色も勝れていない。
随分と酒はあおったのであるが、色に出ずに頬など蒼白かった。
「拙者に至っては申し訳ござらぬ」
こういったのは団八で、これもさっきから実のところ、同じことを二度も三度も、クドクド弁解したのであったが、まだどうやら心が済まないと見え、
「つい、その、口がすべりましてな、楢屋へ養子の一件をお吉殿へ明かしましたので。……すると大変な見幕で、今夜楢屋へ我鳴り込むという。……いやはや何んとも申し訳ない儀で」
そういって頭をヒョイと下げた。
九十郎はそれをギロリと睨み、肩をユサリと揺すったが、しかし何んともいわなかった。
(出来たことなら仕方がない。……やるべきことは今後の処置だ)
こう考えているようであった。九十郎にとってはこの二つの事件は、実のところ厄介な事件なのであった。
大家楢屋の養子になれそうだ、その公式の初会見が、娘の父親と行われる、――という今日になって自分を狙う、服部兄妹がこの地へ来たという。
そうかと思うと妬婦お吉が、養子一件を聞き知って、ぶちこわしに楢屋へ乗り込むという。
やっと出かかったよい目いい光が、これでは摘まみ消されそうだ。