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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

と、又助の声が聞こえた。

「いけねえ、奴ら、女を放した! 織江め、あばれるわあばれるわ! 命がけだからなア、強いぞ強いぞ!」

その又助は佞姦狡猾、九十郎へ助太刀しようともせず、若侍と一緒になって、織江を手取りにしようともせず、両者の間の位置に佇み、依然として胸へ腕を組み、両方へ眼を配っている。

出た足あまって範之丞、一間あまりすべるように、タタラを踏んで前へ出たが、見開いた眼に光景が見えた。

織江であろう白鉢巻、白襷した小さい体が、靡きつ揺れつ髪乱れるように、騒立つ芒の原の中を、前後左右によろめいている。

それを囲んで若侍ども、あしらいかねたその幾人かは、刀を抜いてふりかざし、その幾人かは鞘ぐるみ抜いた、刀を揮って打ってかかっている。

憐れさ、悲壮さ、むごたらしさ!

(今九十郎を逃がしても、また巡り逢うこともある。その時討てば討てる敵だ! ……妹にもしものことがあったら?)

取り返しがつかぬ! 取り返しがつかぬ!

咄嗟に考えた範之丞、これも白鉢巻に白襷、袴の股立ちとり上げた姿、甲斐甲斐しくはあったが疲労と困憊とに、クタクタになっている姿を踊らせ、

「妹よ、織江よ、しっかり致せ! 兄が参るぞーッ」