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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
「戸ヶ崎、あの駕籠は何者だろう? 女乗り物と一つになって、二挺の駕籠が行くようだが」
「殿様」
と外伝がむずむずいった。
「あの二挺の駕籠でございましたら、只今本陣柊屋から、かき出されたものにござりまして、供人の中には貝十郎の配下、白須源吾と桐島伴作とが……」
「いたと申すか、二人の同心が!」
「はい、おりましてござります」
「外伝、新助、誰でもよい、脇本陣楢屋へとって返し、勘定済ませ荷物とりまとめ、予らが後を追って参れ! 爾余の者は予につづけ! あの駕籠を追うのだ、あの三挺の駕籠を!」
お吉を乗せた小船が一艘、団八が櫓を漕いで平野村の方へ渡っていた。
櫓に連れて蜒る波に揺れて、湖面の月は折り畳まれたり、延び縮みしたり砕けたりした。
「九十郎悪逆の本性を発揮し、お前を湖畔へ引っ張り出し、ぶった切ることになっている。あのような男に未練残さず、すてて逃げたがいいだろう。陸路はあぶない湖上から……」
団八はこういってお吉を説いた。
九十郎の残忍の性質は、以前からお吉も知っていた。
(他に増花出来たからは、彼奴それくらいのことやるだろうよ。殺されてはつまらない)
楢屋へ今夜あばれ込んで、九十郎と娘との婚礼話を、ぶちこわそうという算段なども、こうなっては愚にもつかない。