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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

二

た。

(冬次郎様の手へ渡されぬばかりか、うかうか世間へも放してやれない)

そこで今度の信濃への旅にも、お浦を連れて来たのであった。

「お浦、わしとままごとやろうかな」

貝十郎は眼を細め、お浦の顔をいとしそうに眺め、冗談のようにそういった。

「上様とでなければ厭でござります」

狂女だけに率直に、そうお浦はにべもなくいった。

「その上様親切だったかな、火事を起こしたあの晩に?」

「上様お泣きなされました」

「泣いた、ほほう、それはそれは」

「後継者のことをおっしゃいまして、上様お泣きなされました」

「ナニ、上様が後継者のことをいって? ……ふうん」

と貝十郎は眼を見張った。

と、そこへ白須源吾が、百姓姿ではいって来た。

二

「白須氏か。いかがでござった?」

「容易のことでは治まらず、困難の様子にござります」

「岩村田の方も騒いでいるそうだが?」

「双方の勢気脈を通じ、次第に猖獗となります様子。……なおここに詳しきことは、認め置きましてござります」

源吾は懐中から帳面を取り出し、貝十郎の前へ出した。

「ご苦労であった。奥にて休まれい」

源吾は立ち去り、貝十郎は、熱心に帳面の文字を辿った。