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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
四
冷然とした口調でいった。
まだ貝十郎は黙っていた。
「わしの一番恐れるのは、彼奴らが怜悧になることじゃ。各自意見をいい出すことじゃ。……そうなってはたまらない。……で、彼奴らはいついつまでも、魯鈍でおって貰わねばならぬ」
「いつまでも魯鈍でおりましょうか?」
「おるおらぬは別問題じゃ。……魯鈍でおって貰わねばならぬ」
「…………」
「政治の執り方一つによって、いついつまでも魯鈍でいるよ」
「…………」
「誰かに――一番力のあるものに、犠牲になって貰わないことには、国というもの治まるものではない」
「ははあ」
と漠然と貝十郎はいった。
(深い意味があるらしい)
こう思ったからである。
「百姓は産み出してくれる。……物を。……土から。……一番力がある」
「ははあ」
と貝十郎はまたいった。
少しわかったからである。
「犠牲になって貰わねばのう。……気の毒だが、犠牲になって」
意次はここで幽かに笑った。
貝十郎も幽かに笑った。
「恐ろしいのは浪人群じゃよ」
ややあって意次は話をそらせ、この方面へ持って行った。
「貝十郎、どう思うな」
「はい」
と貝十郎はいったものの、恐ろしいのに幾通りもある、どういう意味の恐ろしいのか? これがハッキリわからなかったので、ただそういってだまっていた。