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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

さて下緒は延ばせば一丈、たたんで下げれば五寸となる。――そういう刀を差しているはずじゃ。……蘇芳染めの三尺手拭い、帯に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)んで下げてもおるはず……鈎縄、石筆、打ち竹なんど、六具ことごとくお持ちと睨んだ。……乱波衆(関東派)か透波衆(関西派)か※(感嘆符疑問符、1-8-78) ……ここにも一人同業がござるに、ご会釈なしの素通りとはどうじゃ!」

「…………」

返事はなかったがギョッとしたらしく、ピタリと足音を止めてしまった。

(どう出て来るかな?)

と貝十郎は思った。

間。

しとしと藪に降りかかる、雨の音ばかりが聞こえて来た。

「透波でもなく乱波でもござらぬ。……甲州蜈蚣衆の名残りのものでござる」

ややあってそう答える声がした。

「大切の用件帯びたるもの、ご会釈はご用捨くだされい。……ご免」

というと歩き出したらしく、幽かな足音が聞こえて来た。

「蜈蚣衆とは珍しい。われらは堤宝山流じゃ。……一屈折(一勝負)参ろうか!」

「ナニ堤宝山流? こ奴!」

と叫ぶと高阪郡兵衛は、身を翻えして帰って来た。

さよう、高阪郡兵衛なのであった。