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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
十
「ははあ」
とここまで聞いて来て、熊太郎はいささか驚いたようにいった。
「得意として足を薙ぐ九州浪人、臼杵九十郎と申す者でござれば、わたくしも噂を聞き知りおります」
「わしは知っておるばかりでなく、武州小川の逸見の道場で、その男と試合をしたことがある。しかも負けた」と冬次郎はいった。
「足を薙がれて見事に負けた」
「あなた様さえお負けなされた? では私なども……」と熊太郎は、渋面を作り不愉快そうにいった。
「いやそちは当代無双、まさかに負けはしまいと思うが……しかし、しかしだな、……どうであろう?」
十
「それに致しましても織江殿を、松本伊豆守様が進物駕籠などに入れて……」
と、熊太郎は話を横へ反らした。
「そいつだ」
と、冬太郎は憤ったような眼付きで、どこともなく睨んだが、織江に代わって熊太郎へいった。
「彼奴悪虐の臼杵九十郎、田沼めのご機嫌を取り結ぼうと、織江殿の美貌を吹聴し、手に入れるよう勧めたので、田沼め好色の本性を現わし、そういうことには慣れている同類、松本伊豆めに語ったところ、彼奴は田沼のひきによって、勘定奉行にまで経上った奴、弱味もあれば腐れ縁もあり、それに以前から『ままごと』