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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
もつるる悪縁
枯れた芒を焼くかとばかり、鬼火が地上二、三尺の、雨降る空に延びつ縮みつ、無数に踊り乱れている。
「織江殿、いざ参ろう」
九十郎は歩き出した。
返辞はせずに後に従い、しょんぼりと歩く織江の姿が、その裾の辺に帯の辺に、縺れて燃えている鬼火に幽かに――幽霊かのように幽かに見えた。
「食えるなら行こう! 佐久へ行こう!」
九十郎は呟いた。
「一揆の指揮! 何んでもやる!」
街道の家々の途切れ途切れを、二張の古びた小田原提灯の、黄味を帯びた燈に点綴させて、油単をかけた旅駕籠が二挺、通って行くのが野を越えて見えた。
燈火をなつかしむ人情からであろう、九十郎と織江とはその後に従いた。
それとも知らず駕籠の中には、範之丞とお吉とが乗っていた。
もつるる悪縁
一
諏訪湖で溺れて死ぬるところを、お吉によって助けられた、その縁に引かされ駕籠に乗って、お吉の行く方へ従いて行く、これが範之丞の現在であった。
司馬又助というああいう男へ、うかうか身の上を話したばかりに、ああいう憂き目を見たのである。お吉に身の上を訊かれても、彼は本当を語らなかった。浪人桑名伊織と宣った。怨みを受けて闇討ちされ、湖水に落ちましてござります。