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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

こうして幾日か過ごすうちに、範之丞の体は回復し、多少の元気も出て来たが、重なる艱難に心がとみに弱まったのは争われなかった。

(敵討ちに出た昔の人が、乞食にまで零落し、蒲鉾小屋に雨露をしのぐ、そういう芝居を見たこともあるが、それが自分の身になろうとは)

そう思っては暗然とし、茫然となるようなことさえあった。

お吉に対する感謝の情は、今は恋にまで成長していた。門づけなどさせたくない! この感情は申し訳ない、済まないという義理心以上、いとしく、いじらしくて見ていられない! という感情にまで達していた。

(今日はわけてもやりたくない)

こう彼が思ったのは、一揆がますます猖獗となり、諸方から小諸の城下へ迫る。領主牧野遠江守様も、宥めて治める法を失い、兵を出して鎮撫するらしいと、そんなような噂があるからであり、そういう物騒の城下へやったら、命のほどもあぶないと、それが案じられるからであった。

「何をあなた様饑えて死のうなどと……」

お吉は自分では元気よくいい、笑い声さえ立てていった。

「お侍様のくせにお気の弱い、饑えて死ぬほどでござりましたら、これまでの艱難いたしませぬ。