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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
三軒の廃屋の右の外れの一軒――その奥まった部屋の隅に、伊織の範之丞とお玉のお吉とは、寄り添いながら坐っていた。
もう二人は他人ではなかった。精神も肉体も他人ではなかった。
一揆の衆徒が寄せて来た。残酷な目に逢わされようもしれない。とはいえ駈け出して逃げもならない。隠れ得られるだけは隠れてみよう。――こうしてこの部屋へ隠れたのであったが、聞こえて来る音や声で知れた。血なまぐさい所業が行われたらしい。恐ろしさに二人は抱き合った。
思いを晴らし心を展ばし、観じてみればこれまでの辛苦、お吉にはかえって楽しみであった。
(これで妾ア死んでもいいよ)
側の三味線に手が触れた。
和み充ち足りた心には、四辺のおどろしい風物も、これからの危険も苦にならなかった。
※(歌記号、1-3-28)二人が結ぶ白露の
弾き慣れた辺をふと弾いた。
(そうさ二人で結んだのさ。……嬉しいねえ……はずかしかったが……)
※(歌記号、1-3-28)眼元で拾うのべ紙の
その時隣家から人声が聞こえた。
十五
隣りの家で声を立てたのは、ままごと狂女のお浦であった。
三味線の音色に引かされて、裏縁の方へ出て行ったとたん、親子狐が三匹ながら、ノソリとばかり立ち上がった。