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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

そうでなかったら大金を――。)

こう思って来たのであった。

田沼様が以前からこのお浦を、自分の私生活の秘密を知り、世間にいいふらす悪女として、手にかけ殺そうとしていることを、九十郎は知っていた。だからこそ以前にはこのお浦を、下谷の妾宅の隣家にかくまい、ひそかに扶養したことがあった。そのお浦と意外も意外、車塚で逢った。そこでああいう危険の際ながら、後日の用に役立てようと、大胆にも奪って逃げたのであった。その後九十郎は江戸へはいった。このお浦さえ抑えていたなら、田沼様といえども憚って、左右なく自分を討ちもせず、縛めとるようなこともあるまいと、そう思ったからであった。その後に至って九十郎、一層大胆の心持ちとなって、このお浦をかせにして、田沼様から禄を食もう、でなかったら大金をと、そんなように思うようになったのであった。

「お浦、上様に逢わせてやるぞ。恋しい恋しい上様に」

土塀を見上げ越す個所はないかと、そう思いながら九十郎は、お浦へは賺すようにそういった。

上様に逢わせようといいさえすれば、いつまでも穏しいお浦だからであった。

七

もちろん九十郎はお浦に対し、どうしてあのような車塚などにいたのかと、不思議に思って幾度か訊いたが、上様に関すること以外は、何を訊いても返辞をしない、狂女お浦はそれに対して、ほとんど一言