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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
なそうとは! ……立ち去れ立ち去れ即刻立ち去れ」
群衆は口々に喚き出した。
「田沼様ご老中を退かれたとよ」
「それじゃアこれから世は直るぞ」
「非職の田沼にゃア用はねえ、ひきあげようぜ、行こう行こう」
次第に潮の退くように、うちこわしの暴徒たちは引き上げて行った。
「貝十郎」
と声をかけ、冬次郎は二、三歩前へ出た。
「田沼老中を退いたという、今の言葉真実か?」
審しそうにそういった。
「これはこれは冬次郎様、佐久以来久々の拝顔、ご健勝にて大慶至極」
「余事は申すな、何を空々しく。……確かめたきは今の言葉……」
「貝十郎虚言を申しませぬ。今日限り田沼様には、ご老中ご罷免となられました」
「数日中とは思ったが、さても急な、今日であったか」
いいいいお浦へ眼をつけた。
十四
(車塚の乱闘の際、九十郎によって奪い去られた、ままごと狂女のお浦がいる。さては九十郎お浦を連れて、田沼方へ帰参したものらしい。そのお浦だが後継者に関する、将軍様遺言状を持っているはずじゃ。田沼失脚したとはいえ、将軍様遺言状を手に入れ置かねば、絶対安全ということは出来ぬ。……お浦を捕える手段はないか?)
冬次郎は焦慮した。