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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

もちろんお浦の隠し持っている、将軍様ご真筆の遺言状を、手に入れたくは思うのであったが、さりとてそれを手に入れるためと、お浦を無理に抑留し、千辛万苦して親の敵を討った、処女の織江の肉体を、田沼ごときに穢されることを、黙視することは出来なかった。一刻も早く屋敷へ帰り、一刻も早くお浦を返し、織江をこっちへ引き取らねばならぬ。

それにしても思慮緻密、一言半句もゆるがせにせざる、十二神貝十郎が最後にいった言葉が、心にかかってならないのであった。

(草紙洗い小町、小町になれ? ……あの時の小町は草紙を洗った。俺に草紙を洗えというのか? ……草紙? 草紙? 草紙とは何か? ……草紙とお浦との関係は? 草紙? 草紙? 草紙とは何か? ……草紙は紙だ! 紙? 紙? 紙? 紙? 紙? 紙※(感嘆符疑問符、1-8-78))

にわかに冬次郎は眼を据えた。

「そうか! わかった! そうだったか!」

声に出して思わず叫んだが、

「急げ! 勘助! 謎は解けた!」

しかし例の隠れ家の、茶ノ湯の宗匠でも住みそうな、風雅の屋敷へ帰って来た時、彼を待ちかまえていたものといえば、お浦ではなくてそのお浦を、紛失させたという驚くべき、外伝と新助との報告であった。