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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
鶏冠嘴など怪我せぬよう! ……さあ穏しく巣に籠もれ!」
いいいい意次は両手を拡げ、情慾に眼を輝かせ、ジリジリと織江の方へ寄っていった。
扉も窓もとざされている。
泣いても叫んでも敵の館、助けに来るものはないだろう。
織江は絶体絶命となった。
椅子を楯にし、長椅子を柵にし、廻りつ逃げつ避けながら、遁がれ出るべき個所はないか、危難を突破する法はないかと、焦りもがき身を揉んだ。
「ご身分にお恥じなさりませ! かりにも天下の重きに置かれた、ご老中であられた田沼主殿頭様、この狼藉、この非道、お恥じなさりませ、お恥じなさりませ!」
逃げながら織江はたしなめたが、意次にとっては無痛痒らしく、
「憎まれ口も小鳥の囀り、意次むしろ可愛く思うぞ! ……ぬくめ鳥よ、さあ掴んだ!」
猛然と織江へ躍りかかった。
弓、鉄砲に囲まれて、田沼屋敷から追い立てられた、十二神貝十郎は苦笑しいしい、下谷の裏町を歩いていた。
(野望まだ棄てぬ田沼様じゃ、美しい織江を手に入れても、お浦と引き換えにせねばならぬと、こうハッキリ聞かされた以上、今宵一夜はおあずけを食った犬、まさかに手を出し食いもしまい)