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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

二人はすでにこれ以前から、詩文の友として昔どおり、親しく往来していたのであった。

「螺乃舎」と冬次郎はいった。「この頃お浦はどうしている?」

「あてがいました人形を相手に、ままごとをいたしておりまする。……これをお前から越中へ――定信の手へ渡してくれ。妾から渡すのでござりますのね。……などと申してままごとを」

「将軍様ご他界を知らぬのか」

「いいきかせましたが狂女のこと、信じませんでござります。いつかはお逢い出来るものと、堅く信じております様子……」

「心根まことに憐れなものじゃの」

「見ておりまして思わず私、涙をこぼしますでござります」

「髪の中より遺言状、取り去ったことも知らぬそうな」

「代わりの紙片入れ置きましたゆえ」

「何んと思うてそのようなことを?」

「人には何か玩具なくては、くらして行くことなりませぬゆえ」

「なるほど」と冬次郎は頷いた。「浪人好み、世の建て直し……天下を愁うる志士的行動! などと思うてわしのやって来た、これまでの仕事などもいって見れば、玩具いじりに過ぎなかっただろうよ」

「堂々たる玩具いじりと存ぜられます」

「そうであろうよ。そんな気がする」