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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

織江はさすがに小顫いしながら、懐刀を犇と握りしめていたが、

(駕籠から出た方が安全らしい)

扉を排してスルリと脱け出し、跣足のままで駕籠の背後に、しばらくの間佇んでいた。

身を引っ包む闇の中に、切り合い組み合い、追いつ追われる、無数の人影が渦のように見えた。

(逃げた方がいい、逃げて行こう)

織江は露路へ駈け込んだ。

家並みの片側へ体を寄せ、しばらく様子を窺った。

「いないぞ!」

「逃げた!」

「追え!」

「こっちだ!」

声々が聞こえ、足音がし、数人の武士の走って来るのが見えた。

(どうしよう?)

織江は懐刀を抜いた。

しかしピッタリ家の戸により、呼吸を詰めて動かなかった。

武士達は知らずに駈け抜けて行った。

空地では切り合いが続けられている。

その烈しい刃音掛け声を、道標にしてこの時ようやく、冬次郎と勘助とが駈けつけて来た。

「勘助、向こうだ、向こうの空地だ!」

一つの露路を先に立って、冬次郎は走りながら勘助へいった。

女装ながらも褄ひっからげ、勘助はその後から走って来たが、

「間にあいましたでございましょうか?」

「解らぬ、急げ、もうそこだ!」

空地へ出た。

渦巻く人影!