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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

田沼主殿頭の色慾の犠牲、それに捧げられて「献上箱」に入れられ、「お勝手箪笥」「ままごと」とともに、松本伊豆守から送られた。そうして田沼によって穢されたばかりか、恐ろしい眼に逢ったのでもあろう。発狂して田沼家を出で、爾来江戸市中をああいって叫び、「ままごとやろうヨーッ」とああいって叫び、随所に出没するようになった。

将軍家治公病弱、田沼の屋敷へお成りになってからは――再々お成りになってからは、病弱の度いよいよ加わり、眼に見えて衰弱が烈しくなった。しかもそれでいていよいよますます、田沼の屋敷へお成りになろうとする! それでは何か田沼の屋敷に、そうまで将軍家を吸引する、特殊のものがなければならない。

阿蘭陀風呂だのギヤマン部屋だのと、そういったものが平賀源内だの、吉雄幸左衛門だのといったような、阿蘭陀好みの連中によって、造られているという噂もある。

どっちみち田沼の私生活は、豪奢で淫蕩で陰謀的で、罪悪的であることには疑いない。

田沼を弾劾し失脚させるには、そういう私生活方面の、的確の証拠を掴むことも、大いに必要あろうではないか。

それには幸いお浦という女が、狂女ながらも存在する。