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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

お妾さんの家と化物屋敷

一

向かい合いの家の井戸端で、三人のお神さんが噂していた。

「きっと旦那が来ているんだよ」

「粋だが凄味の旦那さんだねえ」

「お吉っつぁんとは似合いってものさ」

お妾さんの家と化物屋敷

一

「お武士さんを旦那に持つもいいが、一つ間違うと先夜のような、切り合い果たし合いになるんだから、お武士さんてもの何しろ恐いよ」

「お吉っつぁんの旦那もお武士さんだが、機嫌を取るにむずかしいだろうねえ」

そこへ美しい町娘が、長い袂を胸に抱き、何気ない様子に来かかったが、

「ちょいとお尋ねいたします」

といった。

お神さん達は娘を見た。

品のある若い美しい、綺麗な身なりの娘なので、互いに顔を見合わせた。

「向こうに貸家札の張ってある家、家主様はどこなのでございましょう?」

こういって娘は指さした。

河東節の三味線の鳴っている家の、すぐの並びに同じような家が、なるほど雨戸に随分古びた、貸家札を貼って立っていた。

「あの家借りるならおよしなさいまし」

と、お神さんの一人が口を出した。

「ありゃアお前さん、化物屋敷なのだよ」

「化物屋敷、まあ恐い」

娘は大仰に身顫いして見せた。

「一年も二年も借り手がつかないので、家主さんすっかり参っているのさ」