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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

「範之丞殿にはあの通りの病弱、学問の方は素晴らしいが、武道にかけてはからきし駄目じゃ」

織江はいおうとして口を動かした。

それを抑えて九十郎はいった。

「それで討てぬということもあるが、もう一つ討てぬ訳がある」

「何んのあろうか! 何んのあろうか!」

はじめて織江は必死の叫び、血を吐くような声で叫んだ。

「きっと討つ! 討たいで置こうか!」

「それが討てぬて」

と憎々しく、九十郎はグイと片膝を立て、無礼にも六尺のタレを見せた。

「拙者、田沼殿、家臣じゃよ」

「それが何して! それしきのことが!」

「と思うのが世間知らず、箱入り娘のうといところさ。……うふ、田沼殿のご勢力はな、稲荷堀のお屋敷を造られた時の、忍侯の態度でも知れるというものさ。……忍侯の別邸稲荷堀にあり、そのお隣りが田沼殿の屋敷、その田沼殿どうぞやして、もっと屋敷を広めたい、と思ったが自由にならぬ、ところが忍侯松平正敏様、田沼殿のお心を推察して、屋敷地献じようと思ったが、こいつもどうにも自由にならぬ、官規がそいつを許さぬからよ。ところがここに粋なことが起こった。何かというに剽軽者の火事で、二軒の屋敷を焼いてしまった。