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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
だけはお斎のつもりで、三度三度供えてやってるのさ」
「まあまあそれはご奇特な。……」
「もっともその後あたしの旦那が、狂人さんの素姓を知って、こいつア強請の種になるって……」
「強請?」
と勘助は眼を光らせた。
「ご免よ、あたしゃア口が悪いんだからね。……そこで今じゃアあの狂人さん、あたしんとこの居候でね。お仕着も着せれば髪も結ってやり……厭だね、妾のお喋舌り屋さんは! ………さあ、お前さん行ってくんな。化物屋敷借りなくとも、ほかに借りる家沢山あらアね」
「はい、さようでございますとも」
行きかけて勘助は足を止め、
「あいつアままごと狂女のお浦! なアお神さんそうだろう!」
「何んだとえ※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
「知ってるんだ!」
グーッ!
突き出した拳のあて身!
「ヒーッ」
ガラガラ膳が落ちた。
「セリフがあらあ、名セリフがよ。――雉子も啼かずばうたれめえッて……」
褄を掴んでたくし上げた。だらーッと下がった緋の長襦袢の、合わせ目が開いて女の脛とは見えない、細っこい毛臑がニョッキリ出た。
「さあアて、これからどうしたものだ」
気絶はさせたが処置に困り、佇んでいる勘助の足もと、表の備後がすっかり擦り切れ、腸を出している畳の上に、散乱している飯や煮附け、茶碗や皿の間には、お吉が延び倒れている。