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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
「待て! 汝!」
九十郎は追ったが、
(お吉も?)
と自分の妾である女の、生死のほどが案ぜられ、引っ返すとお吉の側へ寄り、ペッタリと坐り、
「お吉、お吉、お吉イーッ」
裏庭を斜めに勘助は走り、玉菊をうたっていた家の横手――お吉の家の横手に沿い、往来の方へ駈けぬけようとした刹那、お吉の家の二階から、二階の窓の格子の間から、閃めき落ちて来るものがあった。
こんな場合にも油断なく、八方へ心を配っていた勘助、
(何んだ?)
と宙で手に受けた。
銀簪だ!
紙が巻いてある!
血で書かれた数行の文字!
二階には織江がいた。
その織江だが先刻方、九十郎を目がけ抜き打ちに、
「これでも討てぬか!」
と切りつけた。
が「あぶねえ」と九十郎に、冷笑されてダーッと足で、腰の辺を蹴られ不覚にも倒れ、起きようともがいているところを、また九十郎のために足蹴にされ、他愛なく刀を奪われてしまった。
「こんな拍子に汝の体、もてあそぶなア訳はねえが、今日はまあまあ勘弁してやろう。が、毎日ゆるゆると、嬲るぞ嬲るぞ覚悟していろ!」
毒吐いて九十郎は立ち去ったが、立ち去り際にもう一度、
「逃げようなどと階下へでも下りたら、それこそ汝真ッ二つだぞ!」