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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
十二
と、嚇かしではなく真実にいった。
九十郎の立ち去った後、織江は口惜しさに泣きぬれた。
親の敵に足蹴にされて、それでも生きていられようか! それもいいがこれから毎日、今日のようにさいなまれたあげく、穢されでもしたら何んとしよう?
(恥辱の恥辱、生きてはいられぬ!)
(遁がれたい、遁がれたい、遁がれたい!)
気がついて見れば持った刀で、足に掠り傷をつけたと見え、血が甲を流れていた。
(これで!)とさながら天籟かのように(事情を書いて投文しよう!)
どうして今までこんなことが、考えつかずにいたのであろう?
障子の紙を手早く破り、畳の表をむしり、それの先に血を浸ませ、
「織江と申す女この二階に、監禁されて責め折檻、憐れと覚し召し、官へお知らせ、なにとぞお助けくださりませ」
こう書いて簪を抜き、脚に巻きつけ様子を窺った。
と、この家の二階の下を、走って行く人の足音がした。
拾ってくだされと心に念じ、格子の間から投げ下ろした。
間。
駈け上がって来る足音がした。
十二
「織江様アーッ」
「勘助殿か!」
かけ上がって来たのは勘助であった。
「事情は後で! ……さあご一緒に! 急いで、急いで、急いで、急いで!」