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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页
四
幽かな羽音を立てながら、蜜蜂であろう、範之丞の、耳を掠めて飛んで行った。
十数間離れた草の上に、冬次郎の組が親しそうに、額を集めて話しているだけで、ほかに人影は見られなかった。
「範之丞殿」
と熊太郎がいった。
「貴殿の人物を冬次郎様には、ことごとくお褒めでござりますぞ」
無言で、微笑し、恭しく、範之丞は一揖した。
それだけで熊太郎は沈黙し、膝の先の辺に咲いている野菊の花をり出した。
が不意に熊太郎は、熱のある口調でいい出した。
四
「田沼の悪政秕政については、おそらく貴殿におかせられても、夙にご承知と存じますが」
こう熊太郎はいい出したのである。
突然だったので範之丞は驚き、相手の顔を凝視した。
それに関わず熊太郎は、ますます熱のある口調で語った。
「叙位叙勲人事行政、ほとんどことごとく私縁をもってし、子の意知は若年寄となり、その弟の意誠は、一橋家の家老となり、第三子が養子となしたる、水野忠友は七千石より、万石となって若年寄となり、その孫竜助のために娘を遣わしたる、掛川侯は寺社奉行より、これまた若年寄に経上りたる等、ことごとくその悪例でござるが、さらに幕府の疲弊した財政、これを建て直すという美名のもとに、各種の官営事業を行い、銀座、鉄座、真鍮座を設け、その冥加金の幾割かを、公然として着服し、味を占めては朱、人参