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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「あ、植田か」

何しにここへ来たのだろうかと清十郎はまず疑った。植田良平というのは、祇園藤次、南保余一兵衛、御池十郎左衛門、小橋蔵人、太田黒兵助などという古参門下とともに、吉岡の十剣と自称している高弟のうちの一名だった。

こんどの小旅行には、勿論そういう股肱の弟子は連れて来ていない。植田良平も四条道場に残っていた方である。――それが、みれば旅装も騎馬支度で、かなり急用らしい血相でもある。留守中、気がかりはたくさんあるが、ここまで良平が鞭打って来るほどの急用は、まさか年暮に迫っての負債とか遣り繰り相談とも思われない。

「何だ。何かわしの留守中に起ったのか」

「すぐ若先生にも、お立ち帰り願わなければなりませぬゆえ、このままで申しあげます」

「ム……」

「はてな」

植田良平は、内懐中へ両手を入れて、何か自分の肌をあたふた探っていた。

――と、ふすま越しに、

「嫌アっ――畜生っ――あっちへゆけっ」

うつつにまで、昼の悪夢におびやかされているのであろう、朱実の、さけびが、囈言とも思えないほど、生々しい呪いをおびて響いた。

良平はびっくりして、

「あっ……何です、あれは」