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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「いや……朱実が……ここへ来てからちと体をわるくし、熱のせいか、時折、うわ言をいうのだ」
「朱実ですか」
「それよりは急用のほう、心がかりじゃ早く聞こう」
「これです」
腹帯の底からやっと取り出した一通の書面をそこへ差し出す。
女の置いて行った燭台を、良平はずっと清十郎のそばへ送った。
何気なく眼を落して、
「あっ……武蔵からだの」
良平は声に力をこめて、
「そうです!」
「開封したか」
「急展とありますので、留守居の者が計りあって、一読いたしました」
「な、なんと申して参ったのか」
清十郎はすぐそれを手にとれなかった。――他人に問うまでもなく彼自身の胸になければならない宮本武蔵だったが、おそらくは、二度とはあの男が、自分へ対して書面をよこすことなどはあり得まいと多寡をくくっていたのである。その気持が今裏切られて、愕然と、彼の骨ぼねの髄を氷のように突き抜けて行ったので、全身の肌が何とはなく粟を生じ、にわかに、清十郎はそれを披いてみる心地も出ず、しばらくただそこに措いて見ているのであった。
憤った唇を噛みしめて、良平はこういった。
「――遂にやってきました。この春、ああは豪語して去ったものの、よもや二度とは京都へ足ぶみ致すまいと思っていたのに――よくよくな慢心者――約束とあって――御覧なさい、吉岡清十郎どの他御一門と、名宛て