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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「自分だって」

「それは、欣しいさ、欣しいからおれは、お通さんみたいに隠したりなんかしないさ。――大きな声でいってみようか、おらア欣しいっ!」

そして、手足を踊らせて、

「でも、もしかして、お師匠様がいなかったらつまらねえな。先へ行って見つけてみるよ、ネ、お通さん」

と駈け出した。

柑子坂を、お通は後から降りて行った。先へ駈けて行った城太郎以上に、心は坂の下へ飛んでいたが、かえって足が急がないのである。

(――こんな姿で)

お通は血の出ている自分の足へ眼を落し、土や木の葉によごれている袂をながめた。

その袂にたかっていた枯れ葉を取って、指先に弄びながら歩いてゆくと、葉に巻かれていた白い綿の中から、不気味な虫が出て来て手の甲を這った。

山の中で育ったくせに、お通は虫が嫌いだった。ぎょっとして手を振り払った。

「おいでようっ、はやく。――なにをのそのそ歩いているのさあ」

坂の下から城太郎の勢いのいい声だった。あの元気のいい声の様子では、さては、武蔵が見つかったものとみえる。――お通は彼の声占からすぐ察して、

「アア、とうとう」

きょうまで自分というものを、ふと心のうちでなぐさめ、遂に届いた一心に対して、我へともなく、神へともなく、誇りたかった。