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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
(お通とは、気だてがまるでちがうが、お通よりは、愛くるしい。お通には、気品があるが、冷たい美だ。朱実のは、泣いても、笑っても、怒っても、みんなそれが蠱惑になる……)
その蠱惑が強力な光線のように丹左のすがれた細胞をゆうべから活溌に若やがせているのだった。しかし、なんといっても争えないのは年齢である。寝返りを打つたびに、朱実の寝すがたを気にしながら、すぐべつな心が、
(あさましや、おれという人間はいったいどうしたものだ。池田家の譜代として、歴乎とした家禄のついていた家がらをつぶし、姫路の藩地からこのように流浪三界の落魄の身となり終ったのも、元はといえば、女のためではないか。お通という女に、ふと、今のような煩悩を起したのが因ではないか)
そう誡めて、みずから、
(まだ性懲りもつかないのか)
と叱ってみたり、また、
(ああ、尺八を持ち、袈裟はかけているが、まだまだ、おれは普化の澄明な悟道には遠いものだ。露身風体のさとりにはいつなれるのやら?)
慚愧の眼をつぶって、むりに眠ろうとして明け方にいたったのである。そのつかれが、彼の今朝の影に、よろよろとこびりついていた。