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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
(――そんな邪心は捨てよう。
しかし、愛くるしい娘だ。また不愍な傷手を負っている。なぐさめてやろう。世間の男性は、そう色情の鬼ばかりでないことも知らせてやろう。
帰りには、薬と、何を求めて来てやろうか。きょう一日の行乞が、朱実のよろこびになると思えば、これは張合いのあることじゃ。――それ以上の慾望はつつしもう)
やっと、心がそこへ落着いて、いくらか顔いろがよくなった時である。彼の歩いていた崖の上で、ばたッと、大きく翼を搏って、一羽の鷹の影が、陽をかすめた。
「……?」
丹左が、顔を上げると、葉の落ちている櫟ばやしの梢から、その顔の上へ、灰色の小禽の毛が、綿を舞わしたように飛んで来た。
鷹は、捕えた小禽を爪にかけて、その時空へ真っすぐに揚がっていた――翼の裏を下へ見せて。
「あっ、捕ったっ」
と、どこかで、人声がひびき、つづいて、鷹の持主の口笛がながれた。
五
間もなく、延念寺の裏坂のほうから、ここへ降りて来る狩支度の二人づれが見える。
ひとりは、左の拳に放鷹を据え、獲物を入れる網ぶくろを、大小と反対のほうへ提げ、うしろに、敏こそうな茶いろの猟犬をつれていた。