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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
武蔵は耐えかねて、叔母をよび、早々、暇を告げようとすると、
「そこにいるのか」
要人は、そこを開けて、閾ごしに眉をひそめた。畳の上へ牛の草鞋でも上げたように、穢い田舎者と、見ている眼だった。
「おまえ、なにしに来た」
「ついでがありましたゆえ、ご機嫌をうかがいに出ました」
「うそをいいなさい」
「え?」
「うそをいっても、こちらには、分っている。おまえは、郷里を荒らし抜いて、多くの人に恨みをうけ、家名にも、泥をぬって、逐電している身じゃろうが」
「…………」
「どの面下げて、親類などへ、のめのめと」
「恐れ入りました、今に、祖先へも郷土へも、詫びをするつもりではおりますなれど」
「……なれど、今さら、国許へも帰れぬのであろうが、悪因悪果というもの、無二斎どのも、地下で泣いておろうわい」
「……長座いたしました。叔母御、お暇いたします」
「待たぬか、これ」
要人は、叱って、
「この辺をうろうろしていると、おまえは飛んでもない目に遭うぞ。なぜなれば、あの本位田家の隠居――お杉とやらいう肯かぬ気の婆どのが――半年ほど前に一度見え、また、先頃からも度々やって来て、わしら夫婦へ、武蔵の居どころを教えろの、武蔵が訪ねて来たろうのと、恐ろしい権まくで坐りこむのじゃ」