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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

と、そこに頷いて、

「強いはずだ。この目録をみても分るが、中条流の印可をうけているのだもの。惜しい死に方をしたものだな。……さだめしこの世に心残りなことだったろう。あの最期の顔は、いかにも死ぬのが残念だという顔つきだった。――そしておれに頼むといったのは、やはりこの品だろう。これを郷里の知る辺へでも届けてくれといいたかったに違いない」

又八は、死んだ佐々木小次郎のために、口のうちで、念仏をとなえた。そしてこの二品は、きっと死者の望むところへ届けてやろうと思った。

――また、ごろりと彼は横になっていた。肌寒いので寝ながら炉の中へ柴を投げこんで、その炎にあやされながらウトウト眠りかけた。

ここを出て行った奇異な虚無僧が吹いているのであろう、遠い野面から尺八の音が聞えて来る。

何を求め、何を呼ぶのか。彼が出て行く折につぶやいたように、愚痴と煩悩を捨て切ろうとする必死がこもっているせいかも知れない。――とにかくそれは物狂わしいまで夜もすがら吹いて野をさまよっていたが、又八はもう疲れきって、熟睡してしまったので、尺八の音も虫の音も、すべて昏々の中であった。