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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

以後、京流吉岡の悪評をいいふらすと、ただはおかんぞ」

周りの船客がじろじろ見るので、藤次はそれだけの権威と立場とを明らかにして、

「このごろの若い奴は、生意気でいかん」

つぶやきながら、独り、艫のほうへ歩み去った。

――と、黙って美少年もその後について行くのだった。

(何かなくては済まないらしいぞ)

と予感したので、船客たちは、遠方からではあるが、皆、二人のほうへ首を振向けた。

藤次は決して事を好んだわけではない。大坂へ着けば、船着場にはお甲が待っているかもしれないのだ。女と会う前に、年下の者と、喧嘩などをやっては、人目につくし、あとがうるさい。

そしらぬ顔して、彼は、舷の欄へ肱をかけ、艫舵の下にうず巻いている青ぐろい瀬を見ていた。

「もし」

美少年は、その背中を軽くたたいた。相当に拗こい性質である。だが、感情に激しているような語気ではない、極めて静かなのだ。

「もし……藤次先生」

知らないふうも装えないので、

「なんだ」

顔を向けると、

「あなたは、人中において、私を法螺ふきと申されたが、それでは私も面目が立たないから、最前、やって見ろとおおせられた芸を、やむなくここで演じてみようと存じます。