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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

立ち会ってください」

「わしが、何を求めたか」

「お忘れのはずはない。あなたは、私が周防の錦帯橋の畔で、飛燕を斬って大太刀の修練をしたといったら、それを笑って、然らば、この船を頻りと掠め飛んでいる海鳥を斬ってみせろといわれたではないか」

「それはいった」

「海鳥を斬ってお目にかけたら、その一事だけでも、私がまるで嘘ばかりいっている人間でないことがおわかりになろう」

「それは――なる!」

「ですから、斬ります」

「ふむ」

と半ば、冷笑して、

「やせ我慢して、もの笑いになってもつまらんぜ」

「いや、やります」

「止めはしないが」

「しからば、立ち会いますかな」

「よし、見届けよう」

藤次が、張りをこめていうと、美少年は、二十畳も敷ける艫のまん中に立って、船板を踏まえ、背に負っている「物干竿」という大太刀のつかへ手をやりながら、

「藤次先生、藤次先生」

と、いった。

藤次は、その構えを白い眼で見すえながら、何用か、と彼方から答えた。

すると、美少年は、真面目くさって、

「おそれ入るが、海鳥を、私のまえへ呼び降ろしていただきたい。何羽でも、斬って見せます」

八

一休和尚の頓智ばなしをそのまま用いて、美少年は、藤次へ酬いたものとみえる。