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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

「寂しい住居と存じます」三十年輩の武士が云う。

「床に掛けてあるあの一軸。蕭瑟とした秋の景。何者の筆とそちは思う?」

「とんと私には解りませぬ」丈左衛門は云い淀んだ。

「弥三郎、そちはどう思うな?」

二十八、九の侍は、声をかけられて赤面した。

「は、私も不調法……」

「さてさて不風流の者どもだの。あれは雪村の風景よ。……文珠狂いの牡丹の香炉の、頂きから立ち上る香の煙り、あの匂いがわかるかの?」

若殿は二人の顔を見た。二人は黙念と腰かけたまま返辞をすることが出来なかった。若殿はニコニコ笑ったが、

「あれがすなわち班馬香よ。一抹百金と称されている世にも珍らしい名香じゃ」

床の間の脇に鹿角に掛かって、陣刀が一振り置いてあるのへキッと若殿は眼をつけたが、

「立派な造作、中身も恐らく名有る刀匠の鍛えであろう――何から何まで奥床しい心憎い住居の様子ではある」

感に堪えたというように若殿は吐息さえ洩らしたのである。

「よく降る雨だ。まだやまぬの」丈左衛門は所在なさに空を見上げて呟いた。「この雨の中を逃げた鷹はどこにどうしておることぞ」

「鷹は帰っては来ますまい」弥三郎はすぐに合槌を打って、「せっかくかかった蒼鷺めにうまく逃げられたのを恥じたと見え、弦を離れた矢のように真一文字に空を翔け、そのまま姿を見失ったからは二度と帰ることはあります