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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
「いかにもありそうな事じゃのう」
カラカラと三太夫は笑ったが、
「そこがお大名の値打ちじゃの。自分の館の雨戸の数を知らぬというのは面白い。しかし一方から云う時はそれが失敗の基とも云える――それはとにかく雨戸の数が九十九あるのはよくござらぬ。すべて法術というものは、偶数を忌んで奇数を好み、奇数奇数と目差して進む。例えば屋内へ忍び込む時には二で割り切れぬ余分の数、すなわちもしも雨戸の数が九十九なれば二で割る時は、四十九となって一を残す。残った一の雨戸を開けて易々と屋内へはいり申す。それ故九十九は不吉でござる。がしかし不吉のその数も手段を加えれば吉ともなる。手段というのは引っ外ずすことじゃ」
こう云うと三太夫は一つの雨戸へ、両手を掛けると思ったがその一枚を引っ外ずした。
開いた雨戸の間から、裏庭の様子を打ち眺めて、三太夫はしばらく立っていた。子の刻を過ごした雨後の庭園は、鬱蒼と繁った木立に蔽われ、所々に築山を見せ、深夜の月に照らされた鉛色の池を一方に湛え、淅瀝たる秋風の渡るまにまに、竹の林は唸りを上げ、木立の間に隠見するのは天主閣に燃える篝の火か、天主の頂きに低く垂れて光を発すは海王星か、深沈として人影なく、時々夜鳥の啼く声ばかりが四辺の静寂を破っている。