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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
そして彼女に白髯の武士の一挙一動を訊くのであった。
白髯の殿の一行へも、紫の君のその噂がいつとはなしに伝わった。
「小姓などでもあるであろう」白髯の殿はそう云ったが、「その遊びぶりが見たいものじゃ……どうじゃ鳰鳥、その小姓は、黄金の雨でも降らせるかな?」
「いいえ」と鳰鳥はさげすむように白髯の殿を遮った。「そのお方様は黄金の雨も白銀の雨も降らせませぬ。総じてその方のお話は風雅の道ばかりでございます。例えば聞き香、和歌の話、糸竹の道にもお詳しく、曲舞もお上手でございます」
「なるほど」と殿は微笑した。懐中から袱紗を取り出したが、巧みの手附きで香を摘み、静かに香炉へ投げ入れた。忽ち香炉の口からは、糸のような煙りが立ち昇り、身も魂も蕩けるような美妙な匂いが館一杯、隅々にまでも漂って行った。
「聞き香の上手なその若衆に、今焚いた香は何であるか、誰か行ってその名を聞いて参れ」
白髯の殿の言葉と共に一人の遊女が立ち上がった。
女はやがて帰って来たが、白髯の殿へ云うのであった。
「漢土渡来の月宮殿、大和名は柴垣じゃと申されました」
「偉い」と殿は膝を打った。「今焚いたはまさしく柴垣じゃ。