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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
そして、こればかりはと思っていた城中へまでも疫病の神が、恐ろしい姿を見せるようになった。
それはある晩のことであったが、時刻もちょうど丑満時、甚五衛門は小姓を連れて奥の厠へ行こうとして廊下を向こうへ歩いて行った。その時、彼の行手から白拍子姿の手弱女と鉄棒を突いた大入道と町娘風の乙女とが、こっちへ悠々と歩いて来たが、もちろんそのような異様の者は彼の家臣の中にはない。さてこそ曲者ござんなれと甚五衛門は眼を怒らせハッタと三人を睨みながら、
「おのれ曲者いずこへ参る?」と大喝一声罵った。
すると怪しや三人の姿は、彼の威勢に恐れたものかパッとそのまま消え失せたが、家の上と覚しい方角から、声を揃えて唄う声が、凄惨として聞こえて来た。
「苗木の城はグラグラじゃ」
「城下に疫病が出来ようぞ」
「死人の丘が出来ようぞ」
そして唄う声が絶えた後を、狐の声が哈々と西小寺の方へ渡って行く。
すなわち、この変事があってから、城中へ疫病が入り込んだのであって、さすがに領主の甚五衛門や浪人組の増良雄や花村右門と云ったような勇士の面々には変りもないが、生若い武士や使僕などは、町人どもと同じように狐の真似をして這い歩いたり、熱寒両様の苦しみをした後コロリコロリと死ぬのであった。