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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
それから若衆は帰って行った。二人はいまだに唯の一度も枕を交わせたことはない。鳰鳥は誰とでもそうであった。白髯の殿とは云うまでもなく、誰とでも枕は交わさなかった。それがかえって彼女を光らせ、彼女を全盛の遊女にした。
鳰鳥は若衆を送り出すと、心しずかにただ一人、褥を冠って寝に就いた。とすぐ、彼女を死が襲った――これまでも彼女をよく襲った、短かい仮死の状態が、眠りかけた彼女に襲いかかった。夢と幻とを合わせたような、恍惚境の只中に、彼女ははいっているのであった。そして彼女は、異形の人から説教を聞いているのであった。異人は日本の人ではない。黒い法衣を纏ってはいるがそれも日本のものではない。手には彼女の持っているような、黄金の十字架を持っている。その十字架には架刑にされた人間の像が取りつけてある。異人は岩頭に坐っている。前には大河が泡を噛んで大蛇のように走っている。それらのものの背後には、鬱々と茂った緑の山が、すくすくと空に聳えている。明るい美しい陽の光が、山々谷々に充ち漲れ、空には赤い太陽と蒼白い月とがかかっている……。
異人は彼女に説教はするが、どうしてもその声は聞こえない。