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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
声のあるのが心頼みじゃ。それに、現在眼の前で鹿が幾頭も射斃された。射た者のある証拠である」
「そうだ、鹿は射殺されて向こうの雪の上に倒れている。あれを拾って来て験べて見よう」武兵衛はこう云って立ち上がったが、にわかに驚いて声を上げた。
「や! 殺された鹿が見えぬ!」
「何、殺された鹿が見えぬ? どれどれ拙者が見付けてやろう」
数馬はその方へ走って行った。しかし獲物はなかったと見えてやがて首を垂れて戻って来た。
「どうだな、鹿はなかったかの?」
「不思議のことじゃ、見当らぬ」数馬は雪に膝を組み、腕を拱いて考え込んだ。
「鹿が射られたと思ったのは、それじゃ俺達の眼違いかな」気の毒そうに武兵衛は云った。
「雪に血潮が零れていた。鹿は確かに射られた筈じゃ」
「それでは生き返って遁げて行ったか」
「あれだけ血潮が流れ出たからには生き返っても遁げられはせぬ」
「どうしても俺らには解らねえ」
「この拙者にも解らぬわい」
二人はそれっきり黙ってしまった。
その当惑した二人の者を、尚も嬲ろうとでもするかのように、三度、勇ましい鬨の声が谷の四方から湧き起った。猟犬の猛々しく吠ゆる声。何者をか叱する人間の叫び。