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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
森然と四辺は静かである。月が雲間に隠れたと見えて木立も家も見分け難い。
と急に四辺が明るくなった。雲が破れて円々と月が姿を出したからである。
「オイ、紋十郎、何をしている!」
不意に耳もとで呼ばれたので彼は驚いて飛び上がった。
「誰だ! や、右衛門か!」
「いかにも俺は右衛門だが、お前は何をしているんだ?」
月光に面を輝かせながらスッキリと立っている右衛門の体には五分の隙さえ見えなかった。
「なあに何んにもしちゃいない。月を眺めていたばかりさ」
「どうも背後暗い弁解けだの、空の十六夜を眺めるには、吟味所の壁へピッタリと耳を当てるにも及ぶまいが」
「ム」と紋十郎は詰まったが、「そういうお前こそ何んのためにこんな所へ来たのかい?」
「弓掛の部落の仲間内に謀反人があるということをチラリと耳に挟んだので、吟味所あたりをそんな野郎が徘徊っていないでもないと、それを案じてやって来たのさ」
「フン」と紋十郎は憎くさげに、「やって来て失望したってわけか」
「やって来てお前を見付けたってわけさ」
「何、この俺がどうしたと?」
「どうもしないが臭いものさ」
「それじゃ何かいこの俺が謀反人とでも云うのかい?」