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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
いっそ兄様と今ここで一緒に死ぬのが本望でござんす。鎌は私の腹切り道具。さあ兄様は使い慣れたその短剣で死んでくだされ! 頼みます。拝みます。願います!」
恋しい男の右衛門へ取り付き縋っているとは夢にも知らず彼女は血汐の涙を流し、必死の思いで掻き口説くのであった。
その翌晩の事であった。
吟味所の内方、オースチン師の室は、燦然たる洋風に飾られていたが、窓には厚く蔽いが掛けられ扉には堅く錠が下ろされ、さも厳重に固められていた。
巨大な樫の机を前に、虎の皮を掛けた椅子に倚り、じっと正面を見詰めている五十近い一人の武士がある。これぞ弾正太夫であった。葡萄大谷の大谿国を波風立たせず政し、間接に直接に一万の部下を手下の如くに使いこなし、美濃、飛騨、信濃を縄張りとして、身は賤民の頭目ながら十万石の大名よりも遥かに豪奢な生活を立て、この戦国の乱れた世に鬱然たる勢力を抱きながら眠れる獅子のそれのように諸国の武将に恐れられ、しかも己は焦心らず逼らず己が国土を静かに守り、その部下よりは尊まれまた愛せられ怖れられている、一個奇怪なる大丈夫、一個不思議なる時世の子の弾正太夫こそこの人であった。