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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

「傷のお方」と呼ばれる武士で、不思議にも今日は一人である。

座敷に通ると主人を呼んだ。出て来た主人の顔を見ると、「傷のお方」はすぐ云い出した。

「主人、喜べ、わが君が鳰鳥を落籍なさるのじゃ。その相談に拙者が来た。拙者は木曽家の家中の者、洞院左膳と申す者じゃ、千でも二千でも金高を云え。金には糸目つけぬからな」

「…………」長者は、キョトンと眼を丸くして、相手の顔を見守ったが、にわかにフッと吹き出した。

「何を左膳様おおせられます。その事についてはもう先刻、花村様がおいでくだされ、莫大もないお金をいただきました」

「なに!」と左膳は仰天した。「何、花村が参ったと?」

「はいはいさようにございます。それから鳰鳥を輿に乗せて、たった今お出かけでございます」

「ふうむ」と左膳は考え込んだ。腑に落ちないと云うように、

「しまった!」と、突然、唸るように、洞院左膳は絶叫した。驚く長者には眼もくれず、彼はあたかも狂人のように、館から外へ飛び出した。そして、それから山路に消えた花村と鳰鳥との後を慕って、電光のように追っかけて行く。

「今日はほんとに変な日じゃ」長者は左膳の走って行くその大仰な様子を見て、審しそうに云うのであった。