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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

「エイ」「ピシーリ」と林の中では、一人の武士が木太刀を揮い、立ち木の股を裂いている。白面隆鼻、前髪立ち、多少姿は変わってはいるが、それは東条数馬であった。

数馬は右衛門に導びかれ葡萄大谷へはいってからは、右衛門の家に同居して、彼が自得の小太刀の妙技「八双払神妙剣」の、その伝習を受けるかたわら、夜な夜な深林へ出かけて行き、両手の冴えを磨いていたが、昨夜も大雪を物ともせず、魔境と称して人の嫌う硫黄ヶ滝の森へ来て、木太刀を揮っていたのであった。

「オオもう夜が明けそうな。右衛門殿も待っておられよう。そろそろ帰ると致そうかの」

こんな事を呟きながら、木太刀を右手にひっさげたままスタスタ森を抜けようとした。

その時、絶壁の遥か上、高原に当たって騎馬武者の音、馬の嘶き、物具の響、それらに雑って若い女の悲鳴が幽かに聞こえて来た。

「不思議な事の」

と、一瞬間、彼は小耳を傾げたが、次の瞬間には掛け声と共に、雪の絶壁を飛び上がった。上州花隈の城主として、天狗飛切りの秘術を編み出し、当時芳名香しいところの、戸沢山城守より伝授されたる小太刀潜入飛燕の術もて、岩に手を掛け枯木に縋りまたは空中を両手で煽ぎ、数十丈の壁面を、目にも止まらず躍り上がる。