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つたかずらきそのかけはし

蔦葛木曽棧

国枝 史郎

「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页

青空文庫

――こう心では思いながら、襲い来る眠りには打ち勝ち難く、彼女は昏々と眠りに墜ちた。

彼女は何に驚いたものかパッと眼をさまして飛び起きた。篠つく雨に風さえ加わり山は大暴風雨になっていた。

彼女は少し眠ったためかいくらか体が楽になった。彼女はやにわに走り出した。と、スルリと道に辷り仰ざまに投げ出された。道の泥濘で辷ったのである。それにも滅気ず刎ね起きてまたもや彼女は走り出したが、道は辷って歩き難く、雨に濡れた体は悪寒に顫え、歩く足も次第によろめき出した。

おりから駈け来る人の跫音が下の方から聞こえて来た。

「紋十郎めに追い付かれた!」

彼女は今は絶体絶命、失望に眼も眩みかけたが、遁がれるだけは遁がれて見ようと隈笹の中へ飛び込んで息をひそめて窺った。はたして現われたのは紋十郎で、彼女がそこにいるとも知らぬか阿修羅のような姿をして峠を上の方へ走って行った。その跫音も遠ざかりやがて全く聞こえなくなった。

彼女はホッと吐息して隈笹の中から走り出たがもう意地にも歩けなくなった。道の真ん中へバタバタと泥にまみれながらくず折れた。

「神も仏もない世であろうか。右衛門さんが殺されるのに妾は一足も歩くことが出来ない。