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つたかずらきそのかけはし
蔦葛木曽棧
国枝 史郎
「講談雑誌」博文館、1922(大正11)年9月~1926(大正15)年5月<br>よき夫婦、復讐とげられる、右京次郎団、兄妹邂逅大団円「現代大衆文学全集 第六巻 国枝史郎集」平凡社、1930(昭和5)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 335,908 字 · 669 页
他には何んの物音もない。その陰々たる山懐中で追いつ追われつ男女の者が、懸命に争っているのであった。
甚五衛門は幾度となく逃げて行く鳰鳥に追い縋って、そのつど刃を振り下ろしたが、一度は女の袖を切り二度目には帯の結び目を切った。
思わず岩に躓いてバッタリ仆れた鳰鳥が、身を起こす間もあらばこそ、甚五衛門は追い縋って乱れた黒髪をムズと握り、初めてホッと息を吐いた。
「まずこう捉らえた上からは再び逃げようとて逃がしはせぬ。さりながら思えば気の毒じゃ。なるほどそちの云う通り、木曽のお館とも云われるお方、たとえ毎晩そちのもとへ数多の家来を引き連れてまた莫大の黄金を持ってよしや幾年通われたとてお家の潰れる気遣いはない。もしまたそれをさえ止めようとならこれもその方の云う通り、そちをこのまま御殿へ上げ、殿のお側へ侍らせたなら、殿の夜遊は止まりもしよう、そのような事はこの甚五衛門何んで気附かずにおるものか! とうに気附いてはおるもののさよう出来ぬ訳がここにある」
甚五衛門はしんみりと優しく訓すように云うのであった。
「そう出来ぬ訳は何かというに、お家に謀反人があるからじゃ!」