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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

「東京日日新聞」1933(昭和8)年11月7日~1934(昭和9)年4月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 页

青空文庫

こういったのは大津絵の鬼――鬼の念仏の仮装をしている、身長の低い男であった。

二人ながら酒に酔っているようであった。

「それにいたしましても贅沢な構造で」

浦島太郎は部屋を見廻した。

「床の甃は大理石とか、模様の市松も精巧なもので」

「壁にかけてあるあの壁懸け、一枚で百金とか申すことで」

「誰が献上いたしましたかな?」

「佐竹右京大夫様じゃと申すことで」

「ご所有の羽州の銅山を、直営直轄にされた礼じゃの」

「それにいたしては献上高が少い」

「いやこの一棟そっくりの費用を、佐竹侯が出されたよしで」

「これは大袈裟、アッハッハッ、では佐竹侯またご出世じゃ」

「さようさようまたご出世じゃ」

「ところで」とにわかに鬼の念仏が、気がかりのように忍びやかに訊いた。「ご貴殿、どなたでござりますかな?」

「これで」というと浦島太郎は、そっと仮面を上げて見せた。

「おおこれは松本伊豆守殿で」

「貴殿は?」

「これで」と鬼の念仏は、自分の仮面をかかげて見せた。

「ははあさようで、赤井越前守殿で」

「お互いご懇意の仲でよかった。……今の話は内緒内緒」

「内緒内緒。心得てござる」

「シッ、誰か来たようでござる」